音のデジタル表現
指導者向けの公開補足
学習本文に加えて、指導の視点・背景・授業での確かめ方を示します。どなたでも読めます。
指導の焦点
標本化周波数と量子化ビット数を、時間の細かさと振幅の細かさに対応させる。どちらも「音量を大きくする設定」ではない。
一歩踏み込んだ背景
非圧縮PCMのデータ量は、時間×標本化周波数×量子化ビット数×チャンネル数で見積もる。ファイルヘッダーや圧縮を含む実ファイルサイズとは区別する。
授業での確かめ方
同じ音の時間方向と振幅方向の段階をそれぞれ粗くした図を比較する。標本化定理は帯域制限などの前提があるため、単なる大小関係の暗記にしない。
制度・規格等は本文末尾の参考資料も確認してください。
この単元でできるようになること
Section titled “この単元でできるようになること”- 音の標本化と量子化が何を区切るか説明できる。
- 周波数と量子化ビット数の違いを説明できる。
- 圧縮しない音声のデータ量を単位付きで求められる。
音の波を、時刻ごとの値にする
Section titled “音の波を、時刻ごとの値にする”音は空気の圧力変化などとして伝わる。マイクはその変化を電気信号に変え、録音装置が決まった時刻ごとの値を取り出す。これが標本化だ。一秒間に何回取り出すかを標本化周波数といい、ヘルツで表す。例えば8 kHzは、一秒間に八千回という意味になる。
取り出した各値を決められた段階へ対応させるのが量子化で、その結果を符号にするのが符号化だ。標本化周波数は時間方向の細かさ、量子化ビット数は一回の値を表す段階の数に関わる。両者は別々の設定である。
段階が増えると、何が変わるか
Section titled “段階が増えると、何が変わるか”一標本を八ビットで表せば二百五十六通り、十六ビットなら六万五千五百三十六通りの符号を使える。同じ範囲の信号をより細かく区切れるため、量子化による差を小さくしやすい。ただし、マイクの雑音や録音環境まで改善するわけではない。
入力が大きすぎて記録できる範囲を超えると、波形の山が上限で切られるクリッピングが起き、音がひずむ。保存後に音量を小さくしても、失われた波形はそのままでは戻らない。録音前に、実際の声や演奏で入力の大きさを確認する。
架空の案内音声の容量を求める
Section titled “架空の案内音声の容量を求める”次の条件で、圧縮しないPCM音声を保存するとする。ファイルの管理情報は計算に含めない。
| 条件 | 設定 |
|---|---|
| 標本化周波数 | 16 kHz = 16000回/秒 |
| 量子化ビット数 | 一標本あたり16 bit |
| チャンネル数 | 一つ(モノラル) |
| 長さ | 12秒 |
データ量は、16000 × 16 × 1 × 12 = 3072000 bitとなる。八で割ると384000 Bで、十進接頭語なら384 kBだ。これは音の標本データ部分の量であり、実際のファイルはヘッダーなどにより少し大きくなる場合がある。
左右の二つの音を保存するステレオなら、同じ条件ではチャンネル数が二となり、データ部分は二倍になる。標本化周波数だけを二倍にしても、量子化ビット数だけを二倍にしても、この計算上の容量は二倍になるが、変わる音の性質は異なる。
速い変化を記録するには条件がある
Section titled “速い変化を記録するには条件がある”理想的な条件では、記録したい信号に含まれる最高周波数の二倍を超える標本化周波数が必要になる。実際の装置では、取り込む前に高い周波数成分を抑える処理なども行う。単に回数を減らすと、元にない低い周波数として見えてしまう折り返しが起こり得る。
ただし、標本化周波数を音の高さそのものと混同しない。一秒間に何回測るかと、波が一秒間に何回振動するかは、どちらも周波数の単位を使うが意味が異なる。
内容と使う場面から品質を選ぶ
Section titled “内容と使う場面から品質を選ぶ”話し声の内容を伝える案内と、楽器の細かな響きを残す録音では必要な条件が違う。送信容量の制限や再生装置も考える。圧縮した音声では、標本データの単純な積だけでファイル容量を求められないことにも注意する。
聞き取れるかは設定値だけで決まらない。マイクとの距離、周囲の音、話す速さを調整し、想定する場所で試聴する。音だけでは利用できない人のため、文字の説明も用意しよう。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 標本化周波数 | 一秒間に標本を取り出す回数 |
| 量子化ビット数 | 一標本の値を表すビット数 |
| チャンネル | 個別に保存する音の系列 |
| PCM | 標本化・量子化した値を符号化する方式 |
- 標本化周波数を増やすことと、量子化ビット数を増やすことの違いを説明しよう。
- 8 kHz、八ビット、モノラル、二十秒の非圧縮PCM音声のデータ量をバイトで求めよう。
- 音割れのある録音を避けるため、録音前と録音後に何を確認するか提案しよう。
問1の解答例を見る
標本化周波数を増やすと、単位時間に測る回数が増える。量子化ビット数を増やすと、一回の測定値を表す段階数が増える。時間方向の細かさと、値の細かさの違いである。
問2の解答例を見る
160000 B。8000回/s×8 bit×1チャンネル×20 s=1280000 bitであり、8で割ると160000 Bとなる。管理情報は含めない。
問3の解答例を見る
録音前に大きな音でも入力レベルが上限を超えないよう試し録りする。録音後は再生し、音割れ・雑音・声の聞き取りやすさを確認する。音割れした記録を後から音量だけ下げても元の波形には戻らない。
音は、時間と値を区切ってデジタル化する。非圧縮PCMの容量は、標本化周波数、ビット数、チャンネル数、秒数の積で求める。録音環境と再生場面の確認も欠かせない。